いらない不動産ほど、処分に困るものはありません。「いらない不動産など存在するのか?すぐに売ってしまえば良いのではないか?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、残念ながら「貸せない・売れない・使えない」土地は少なからず存在するのです。
貸せなくても売れなくても使えなくても、持っているだけで良いのであれば問題ありません。放っておけばよいのですから。しかし、不動産を所有するという事はお金が掛かるという事とイコールです。所有しているだけで固定資産税や土地計画税が掛かります。所有している不動産を利用しているのかしていないのかに関わらず、税金を支払わなければいけません。
この固定資産税や都市計画税は市町村税と呼ばれています。市町村税はそれこそ地方自治体の収入になる税金です。その中で固定資産税がどの程度の割合であるのかを調べてみたところ、市町村税収全体の約4割が固定資産税となっているのです。これ、ビックリしませんか。まさか4割もあるとは思いませんでした。
固定資産税は地方自治体のメインの収入源であると言っても過言ではありません。不動産を所有させしてもらえれば徴収できるのですから、地方自治体にとってはオイシイ収入です。ほぼ何もしなくて良いのですから。なので、いらない不動産を市町村に寄付をしようと思ってもなかなか出来ません。市町村としては不動産を所有してもらえれば税収が上がるわけですが、寄付を受けてしまうとその分の税収は無くなります。みすみす税収を手放すようなことはしません。よほど良い立地なら可能性はありますが、その場合は寄付するまでもなく売却ができるでしょう。
“土地を買えば必ず値上がりする”
1990年代前後は確かに土地を買えば値上がりする状況でした。金融機関も不動産を担保にとれるのであれば融資をバンバン行っていた時代です。日銀の異次元の金融緩和により、2017年現在も金融機関の不動産に関する融資は積極的ですが、”土地を買っても値下がりすることがある”状況です。何度も言いますが、立地によっては売ることすら出来ません。
売れないのに税金がかかるなど最悪の状況以外の何物でもありません。何か方法はないのでしょうか。実はいくつか方法があるのです。
1.隣地所有者へ贈与
この隣地所有者への贈与が一番可能性が高いです。「駐車場」「倉庫」「家庭菜園」など隣地の所有者であれば様々な利用方法が思いつく可能性があります。「タダならもらっておこうかな」と思ってくれるかもしれません。その土地の状況も知り尽くしているはずですから。
しかし、注意点も多々あります。主に税金のお話です。例え土地をタダで贈与をしたとしても、その土地の路線価が高い場合には贈与税を支払わなければいけない場合もあります。贈与税は路線価を利用して算出しますが、この路線価から導き出された評価額から適用可能な特別控除額を差し引き、それでも課税されてしまう場合には贈与税を支払わなければいけません。
贈与税の計算は「いくらで贈与するのか」ではなく、その「贈与の対象の評価額がいくらなのか」で行います。この点を勘違いされている方が非常に多いので、十分に気を付けてください。”タダより高いものはない”は言い得て妙ですね。
不動産の所有権を放棄することなどできるのか?
贈与税の他にも、不動産取得税や登録免許税、もちろん固定資産税や都市計画税も必要です。一番最初にも述べましたが、不動産の所有にはお金が掛かるのです。もし、隣地所有者に贈与する場合には、
”不動産の贈与を受けることのメリット”
”各種税金を支払うデメリット”
この2つを天秤にかけ、デメリットを上回るだけのメリットがあるのかどうかが勝負の分かれ目となるでしょう。
2.所有権の放棄
まず「所有権の放棄など出来るのか?」というギモンが浮かぶと思います。まず、不動産は登記を行う事によって全て管理されています。”新たに住宅を建築した””不動産を売買した””不動産の抵当権を設定した”など全て登記によって管理されています。なので、不動産の所有権を放棄する場合にも確実に登記が関わってくるはずです。
その前に、所有権などを規定している民法の規定を見てみましょう。探してみたところ、所有権の放棄に関する条文が民法にありました。
民法第239条(無主物の帰属)
1.所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2.所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
1項は動産、2項が不動産に関する条文です。その2項を読んでみると、所有者がいない不動産は国のものになる、と規定されています。が、この条文はあくまで最初から所有者がいない不動産に関しての条文のようです。一度でも誰かが所有した不動産に関してはこの条文は当てはまりません。
民法の中に所有権の放棄を裏付ける条文は見つかりません。やはり、登記に根拠を求めるしかなさそうです。もし、不動産の登記を削除する方法でもあれば所有権の放棄は出来そうです。そこで、色々と調べてみましたが、
現状では登記を削除し所有権を放棄する手続きは存在していません。
つまり、一度所有者として登記をした場合、何かの原因(譲渡や相続)で所有権が他の方に移る以外に「私は所有者ではありません」と主張する方法は存在しないのです。
3.相続放棄
相続する前に相続財産に利用価値のない不動産が含まれていることが分かっている場合、相続放棄という手法が友好的です。相続放棄とは、相続人が被相続人の財産を放棄する事であり、主に被相続人に負債が多い場合に利用されます。
相続放棄を行えば、いらない不動産を放棄し処分することができます。もちろん、相続放棄にもメリットとデメリットがあります。
相続放棄のメリット・デメリット | |
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メリット | デメリット |
被相続人の負債を引き継がなくてOK | 相続財産を全て放棄することになる |
1人を残して他の人が全員相続放棄をすれば、遺産を分割する必要がなくなる | 相続放棄の撤回は出来ない |
家庭裁判所に申し立てるだけなので手続きがカンタン | 相続放棄をした人は最初から相続人ではない事になるので、次の順位の相続人が思わむ負債を負う事もある |
– | 相続放棄により不動産の固定資産税の支払い義務は免れるが相続放棄を管理する義務は免れない |
図表の中で特に重要と思われる点を説明します。
“相続財産の全てを放棄することになる”
相続放棄には、相続財産を放棄することと被相続人の負債も放棄するという2つの意味が含まれています。「負債はいらない。売れない不動産もいらない。お金だけちょうだい!」というように、自分の都合の良いように相続を利用できる制度ではありません。
相続放棄は”0か100を選択できる”制度なのです。
“相続放棄をした人は最初から相続人ではない事になるので、次の順位の相続人が思わぬ負債を負うこともある”
民法には、
民法第939条(相続放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
と規定されています。相続放棄をした人は最初から相続人では無かったことになるので、その次に相続の優先順位を保有している人が相続人となります。
“相続放棄により固定資産税の支払い義務は免れるが、相続財産を管理する義務は免れない”
まずは民法の条文から。
民法第940条(相続放棄をしたものによる管理)
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己お財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
条文の通り、相続財産の管理義務は他の誰かが相続財産を管理できるようになるまでの間継続します。しかし、自分が相続したくない相続財産を他の相続人が相続する可能性は低いです。みんな考えることは同じという事です。相続人全員が相続放棄をした場合には、結局裁判所に申し出て「相続財産管理人」を選任してもらうしか自分が相続財産を管理する義務から免れる方法はありません。
しかし、この相続財産管理人は選任までに時間がかかります。選任されるまでは相続財産の管理の義務を免れません。また、費用も結構必要です。100万円近くかかることもあるようです。費用面で諦めてしまい、結局自分で管理することになってしまうことが多いです。
4.まとめ
いかがでしたでしょうか。
動産(不動産以外のもの全て)であれば、例えばゴミとして捨てることで所有権の放棄(?)ができます。しかし、不動産を捨てることは出来ません。空地で雑草が生い茂っているような土地でも誰かの所有地です。捨てられている訳ではありません。
不動産に関して、もし所有権を放棄する手段があるとすれば”相続放棄”なのではないでしょうか。しかし、相続放棄は相続の時にしか利用できません。また、一度相続をしてしまうと、その後に不動産の所有権を放棄することは出来ません。今後は今まで以上に空地・空き家が増加することは目に見えています。今後は、所有権の放棄を行うための手続き方法を制定する必要も出てくるのではないでしょうか。
確かに、簡単に不動産の所有権の放棄を認めてしまうと国の負担が増大します。国の税収は減少します。個人の利益と国の利益が相反する難しい問題です。所有権の放棄を認めるにしても、その放棄を行う個人に対して一定程度の費用負担を求めることが現実的です。一般家庭でも大型のゴミを捨てる場合にはお金が必要な時代ですからね。いずれ「その不動産の所有権を放棄するには○○万円必要です」というやり取りが当たり前になっているかもしれません。
最後までお読み頂きましてありがとうございました。