百貨店やデパートの地下にある食品売り場。通称「デパ地下」。今となっては誰でも一度は聞いたことがある言葉になりました。聞いたことがあるだけではなく、実際に足を運んだことがある方も多いのではないでしょうか。
実際に足を運んでみると分かりますが、本当に様々な食材が並んでいます。肉・野菜・魚はもちろんの事、和洋中の総菜やケーキ屋にお菓子、お酒まで並んでいます。もはやデパ地下に無いものを探す方が難しいのではないでしょうか。
デパ地下は買い物をするも良し、ブラブラするも良しです。夕方になると本当にたくさんの人で賑わいます。人気のお店の前には行列ができる程です。人を引き付ける何かがデパ地下にはあるのでしょう。もちろん私もその中の1人ですが。
このように買う側であるお客さんとしては非常に楽しく魅力的なデパ地下。では売る側であるテナントさんから見た場合には、デパ地下はどのようなものなのでしょうか。もちろん、多くの人で賑わうデパ地下は食品を売る場所としては文句の付けようが無いくらいの最高の立地です。下手な駅前にお店を出すよりもデパ地下に出店したほうが確実に売り上げが見込めます。
しかし、その食品を売る立地として最高であるが故の問題があります。それは家賃が異常に高い問題です。立地が良ければ家賃が高くなるのは世の常であることは重々承知していますが、デパ地下の家賃の高さは度を越えています。店舗面積が5坪未満であるのに、月額家賃が100万円以上になることもザラです。1坪20万円以上です。これは売買の価格ではありません。あくまで賃貸の価格です。
月額家賃が30万円以上/坪の話も耳にしたことがあります。もはや〇ッタクリと呼ぶにふさわしいレベルに達しています。しかし、このような超高額家賃を請求されるにも関わらず、デパ地下に空き区画がある光景を私は目にしたことがありません。つまり、家賃が超高額でもテナントさんは入居し続けており、また既存のテナントさんが退去したとしても新たなテナントさんがすぐに見つかるという事に他なりません。なぜ家賃が超高額であるのにデパ地下はテナントさんに大人気なのでしょうか。
1.なぜこれほどまでに家賃が高額なのか?
売上歩合方式という手法により月額家賃が決定しているからです。カンタンに言えば「売上に応じた家賃を支払う」という事になります。
月額家賃=ひと月の売上高×歩合({9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8})
例えば、ひと月の売上高の10{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}を家賃として支払う契約の場合「売上高が100万円であれば家賃は10万円」「200万円であれば家賃は20万円」というように計算をします。この売上歩合方式は主に商業施設のテナントさんなどに対して使われています。オフィスビルや住居系のマンションが固定賃料であるのとは全く異なりますね。
では、ひと月の売上高が0の場合には家賃を支払わなくてよいのでしょうか。もちろんそんなことはありません。最低家賃というものを設定し、例えどんなに売上高が少なくてもその最低家賃分は支払わなければいけないようになっています。そもそも、そのような最低家賃しか支払えないテナントさんは遠くない将来、その場所から追い出されてしまう可能性が高いですが。。。
話を戻しますが、この売上歩合方式の場合にはテナントさんの売上が上がれば上がるほどテナントさんの支払う家賃も上昇します。なので、たった数坪しかないのに家賃が100万やら200万やらという異常事態が起こり得るのです。テナントさんが頑張った分、そのデパ地下の運営者に家賃が転がり込む仕組みです。羨ましい。。。
2.ここまで高額な家賃を支払ってもテナントさんは大丈夫なのか?
実は全く問題がありません。全く問題が無いというのは少し語弊があるかもしれません。家賃は少なければ少ないほど経営は楽になりますので。しかし、前述したように、高額家賃の原因は「売上歩合方式」にあります。つまり、
高額家賃を支払う=売上が高い
のであり、「儲かっているから家賃も高い」という事です。
デパ地下や商業施設に入居しているテナントが家賃を想定する場合、家賃額ではなく売上(利益)に対する家賃の割合で行います。つまり、100万円の家賃が高いのか安いのかではなく、その100万円が売上(利益)に対して何{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}になるのかを計算するのです。そして、その割合がテナントが想定する範囲内に収まるのであれば出店しますし、収まらないのであれば家賃交渉をするか若しくは出店しないという選択をします。100万円や200万円という額面で判断するわけでは無いのです。
飲食店においては、売上高に対する家賃割合は10{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}が1つの基準とされています。他方、デパ地下の対売上高家賃比率は15~20{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}程度であることが多いです。また、売上歩合の割合はテナントさんによってバラバラです。集客力の高いテナントさんに対しては売上歩合の割合は低く設定されます。運営側としてもぜひ入居してもらいたいので、条件のハードルを下げます。他方、テナントさんの方から運営側に「出店させてほしい」とお願いをする場合には売上歩合の割合は高くなります。リスクヘッジの意味も兼ねているのかもしれません。
私の住んでいる熊本の某〇屋百貨店さんでも同様の数字であるように思えます。運営者にとってはとても都合の良いビジネスモデルですよね。テナントさんが頑張れば頑張るほど収入が増えるのですから。
ここまでの考察によって、たった数坪の面積に100万円200万円の家賃を支払っても問題が無いことが分かりました。しかし。しかしです。理論上は問題が無くても感情論としては問題大アリだと思いませんか。たった1坪の月額家賃が20~30万円て、それ「売買価格の間違いじゃないですか?」と言いたくなるのは私だけでしょうか。
3.デパ地下総菜の雄「RF-1」の坪単価家賃はどの程度なのか?
デパ地下総菜と言えばRF-1さんの名前を挙げる方も多いのではないでしょうか。1店舗で1日平均約57万円も売り上げるモンスター惣菜店です(2017年現在)。月額売上高にすると、1,750万円程度なります。つまり、1店舗で年間2億円超。。。
私に1店舗頂けないでしょうか
仮にRF-1さんの売上歩合の割合が15{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}であるとしたら、
1,750万円×15{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}=約263万円
RF-1さんは工場で製造した総菜を各店舗に配送し販売するセントラルキッチン方式を取っています。なのでバックヤードの面積のそれほど必要が無いはずです。私の私見ですが、
3坪(売り場面積)+3坪(バックヤード面積)=6坪(合計)
賃貸面積は6坪程度なのではないでしょうか。という事は、
263万円÷6=約44万円
44万円/坪という100人中99人が売買価格と間違えるであろう数字がはじき出されました。もはや神の領域ですね。頭が混乱し始めました。自分で何を言っているのかよく分かりません。分かることはただ1つ、「日本には売買価格並みの家賃が存在していた」という事です。
ここで1つだけ付け加えておきます。RF-1さんはデパ地下の運営側としてもぜひ入居していただきたいテナントさんです。圧倒的な集客力をお持ちのテナントさんです。なので運営側から「売上歩合の割合を勉強させていただきますので、ぜひうちに入居してください!」というような強気の交渉が可能なテナントさんの1つであることに間違いはありません。売上歩合の割合も10~15{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}程度というところでしょうか。家賃よりもRF-1さんの集客力が欲しくて入居をお願いしている運営側も少なくないと思います。
4.百貨店は小売業ではなく不動産業である
私の持論の1つに「百貨店は小売業ではなく不動産業」というものがあります。昔の百貨店は小売業で利益を上げていましたが、現在の百貨店は集客施設である百貨店自体をテナントさんに切り売りし、その家賃収入で利益を上げているのです。なので必然的に「家賃収入で儲ける=より高額な家賃収入を生み出すテナントを入居させる」という戦略になるのです。百貨店の地下にあるデパ地下も然りです。
百貨店のメイン商材であった衣料品の主戦場はインターネットなどの通信販売に移りつつあります。衣料品で稼ぐ百貨店業態は今後が近い将来に立ち行かなくなることは目に見えています。百貨店が行った家賃収入モデルへの転換は理にかなっていると言えばかなっています。しかし、 今の日本は人口減少局面に置かれています。地方都市においては、人口の減少はより顕著に表れるでしょう。このような事を勘案した場合、百貨店の家賃収入モデルは果たして成り立っていくのでしょうか。
百貨店が高い集客施設機能を有しているからこそテナントが入居し高額な家賃を支払いますが、そもそも人口が減少すれば集客も何もなくなってしまいます。現に地方都市においては閉店を余儀なくされている百貨店も多数存在ます。今後は更なる生き残りをかけた戦いが始まるのではないでしょうか。
不動産業者としての百貨店がどこまで戦えるのかを今後もじっくり見守っていきたいと思っています。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。
圧倒的な高額家賃にはしっかりとした理由があることが分かって頂けたかと思います。その理由を受け入れるのか受け入れないのかは皆さん次第だと思いますが、その高額賃料を支払ってでもデパ地下に出店したいというテナントさんは後を絶ちません。
しかし先ほども少し触れましたが、入居をお願いする立場、つまり言い方は悪いですが弱者の立場になった場合には売上歩合の割合は更に跳ね上がります。25%という数字も十分にあり得ます。テナント入居希望者からデパ地下側に「入居させてほしい」とお願いする場合には「これだけの家賃を払えるなら考えてあげてもいいけど」のような弱者の交渉になり家賃が高額になってしまう可能性大です。「もう少し何とかなりませんかね?」と言ったところで「嫌なら他のテナントに入ってもらうから問題ナシ!」で終わります。もちろんこのようなあくどいデパ地下ばかりではありません。良心的なデパ地下運営者もたくさんあります。ただ「弱者の交渉になってしまうと家賃が高騰する可能性がある」という事を伝えたかっただけです。
最後までお読み頂きましてありがとうございました。