賃貸マンションを退去する際に、管理会社から「原状回復費〇〇万円」と記載されている清算書などを見たことはないでしょうか。原状回復費とはようは「キレイにして返してもらうので、その費用は借りていた人が支払ってください」ということです。まあ分からなくはないですよね。借りたものはキレイにして返すのが一般的であると思います。
この原状回復費、高額になることがしばしばあります。以前住んでいた賃貸マンションにおいて、ドアに椅子をぶつけてへこませてしまったことがありました。そして退去の際、原状回復費として10万円以上の金額を請求されました。このように10万円を超えることもしばしばあるのです。ちなみにその時は管理会社に電話をして「高すぎる!」と伝えたところ、減額してくれました。おかしな話ですよね。文句を言わなければそのままの価格だったという事になるのですよ。
そもそも原状回復とは、
- 「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧する事」
上記のように定義されております。しかし、残念ながらこの定義だけでは難しすぎてよく分からないですよね。なので
- 原状回復とは、入居者がわざと若しくは不注意で付けてしまったキズや汚れを復旧すること
と覚えておいて頂ければ大丈夫です。これなら分かりやすいですよね。しかし、もし何かの試験で原状回復について問われたらガイドラインの定義を書いてください。上記の定義はそれを分かりやすく表現したものであり、正確性を保証するものではありません。
上記の定義では、「わざと」「不注意」でキズなどが付いてしまった場合が原状回復の対象になっています。では通常の使用においてついてしまったキズは原状回復の対象になるのでしょうか。答えは「ならない」です。建物の経年劣化及び通常の使用によるキズや汚れを修繕する費用は、通常の賃料に含まれていると解釈されています。なので、原状回復として入居者が費用を支払う必要はありません。
原状回復に関するトラブルは非常に多いです。前述のガイドラインは そのようなトラブルだらけの原状回復に一定の基準を提示するために作成されたのです。しかし残念なことに、このガイドラインに強制力はありません。なので、原状回復に関するトラブル解決の直接的な要因にはなり得ませんでした。国が助けてくれないのなら、自分の身は自分で守るしかありません。
そこで今回は「原状回復で揉めない」為の具体的な方法を4つ紹介します。この4点に注意をしていただければ、原状回復でトラブルにならないだけではなく、原状回復費用が発生した場合にも最安値で抑えることが出来るでしょう。全く難しい事ではありません。ぜひ試してみてください。
1.入居前に入居予定の部屋を入念に確認
まずは入居前に入居予定の部屋を入念に確認しましょう。特にキズや損耗等に関しては目を光らせてチェックしてください。前入居者によるキズや汚れは結構残っている事があります。不動産業者もしくは管理会社の人と共に1つずつデジカメなどで画像を残しながらチェックします。
これは非常に重要な作業になります。この作業を怠ると、退去の際に前入居者が付けたキズや汚れまで「原状回復してください!」と言われてしまう事もあります。表現の仕方は悪いかもしれませんが、「自分の落ち度で付いたキズや汚れではない」という事の証拠を集めておきましょう。そうすれば退去の際に変な言いがかりをつけられても何も怖くありません。
前述の国土交通省のガイドラインの中に「入退去時の物件状況及び原状回復確認リスト(例)(P-4)」が添付されていますので、参考にすると良いでしょう。
2.契約書中の原状回復に関する条文のチェック
賃貸借契約書に関しては全ての条文を読み込む必要がありますが、特に 原状回復についての条文は丁寧に読み込みましょう。契約書によっては原状回復に関する条文が全くないものもあります。そのような場合には、退去時の原状回復に関するトラブルを避けるために、条文を付け加えてもらいましょう。
また「原状回復に関する条文はあるが内容がよく分からない」「原状回復に関する条文の内容が借主に不利」という契約書も存在します。そのような場合には納得のいくまで不動産業者若しくは管理会社と話し合いましょう。自分でしっかりと納得のできる内容でない限りは契約書に押印をしてはいけません。賃貸借契約の当事者双方が納得の上で契約をすることこそトラブル防止の最善策です。
主に下記の3つを頭に思い浮かべながら契約書をチェックしてください。
- 経年劣化や通常損耗に対しては原則として入居者側の原状回復義務なし
- 賃貸借契約当事者同士がガイドラインの基準とは異なる特別な合意をした場合には、その特約は有効
- 特約が有効であっても、その特約の内容が社会通念上妥当性をかくようなものであれば✖
特にこの「特約」に気を付けてください。この特約の存在が原状回復におけるトラブル発生の一番の原因です。前述しましたが、ガイドラインに強制力はありません。契約当事者同士でガイドラインの基準とは異なる原状回復の特約を締結した場合には、特約が優先されます。「知らなかった」では済まされませんので、この点は覚えておいてください。ちなみにこの特約の有効性を判断する基準も前述の国土交通省のガイドラインが提示しています。詳細までは省略しますが、念のため掲載しておきます
- 特約の必要があり、暴利的でない客観的・合理的な理由があること
- 賃借人が特約によって原状回復義務を超えた義務を負うことを認識していること
- 賃借人が特約による義務負担の意思表示をしていること
上記3つの要件を満たしていない特約は無効になる可能性があります。
3.普通に住む
当たり前の事を当たり前に行う事こそ一番難しいのです。つまり普通に住む事こそとても難しい(?)のです。このままだと議論が哲学的になりそうなので、ここでは普通の住み方と普通でない住み方の具体例を挙げてみます
普通の住み方
- 金魚の飼育
- 画びょうやピンの穴
- 子供が部屋を傷つけない程度に暴れる
普通じゃない住み方(原状回復費用を負担する可能性のある住み方)
- 動物の飼育(部屋を傷つける可能性のある動物)
- 部屋の中でタバコを吸う
- 子供が部屋を壊しながら暴れる
- ねじやくぎの穴
また、原状回復における一般的なオーナーと入居者の修繕分担区分の表を掲載しておきます。 ぜひ目を通してみてください。
原状回復における一般的な修繕分担表 | |
---|---|
オーナー負担 | 入居者負担 |
日照によるフローリングの色落ち | 飲み物等をこぼしたことによるフローリングの |
画びょうやピンの穴 | 釘やネジの穴 |
日照によるクロスの変色/td> | タバコのヤニによるクロスの変色 |
テレビ・冷蔵庫の電気ヤケによる壁の黒ずみ | 日常の清掃を怠ったことによる壁の黒ずみ |
家具の設置による床やカーペットの設置跡 | 引っ越し作業中に家具を引っ掛けたことによるキズ |
網戸の張替え | 飼育しているペットによるサッシの傷 |
鍵の取替え | 鍵を紛失したことによる取替え |
壁に張ったポイスターなどの跡 | 結露を放置したことによる壁の腐敗 |
何となくでも構いませんので、まずはイメージを掴んでください。タバコを吸う方は、ベランダで吸うようにすれば問題ないでしょう。動物を飼う方は事前に管理会社に相談しましょう。当たり前の事を当たり前に行いましょう。
4.普通に掃除をする
これもまた当たり前の事なのですが、普通に掃除をしましょう。掃除業者さんのような専門的な掃除ではありません。日常的な掃除の仕方で全く問題ありません。もし、専門的な掃除を求められた場合には、断固拒否してください。「専門的な清掃はそちらの負担で行ってください!」と伝えましょう。
但し、日常的な掃除を怠った結果として部屋が痛んだり汚れたりした場合には、入居者負担でクリーニングなり原状回復なりを行う必要があります。自分の為にも部屋の為にも掃除を行いましょう。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。
具体的に4つの方法を述べてきましたが、全く難しい事はありません。極めてカンタンです。契約書の条文のみが慣れていないと困惑してしまうかもしれません。でもそこは根気で乗り越えましょう。
入居前に部屋を確認して契約書の原状回復の条文を確認して普通に住んで普通に掃除をする
「原状回復におけるトラブル防止」「不要な原状回復費用の削減」に必要な事はこれだけです。繰り返しになりますが、「当たり前のことを当たり前に行う事ほど難しい」のです。カンタンだからと言って決して手を抜かないようにしてください。
最後までお読み頂きましてありがとうございました。