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2017.10.04   2020.07.13

これだけでOK!借地権を相続した時に必要な3つの事+α

借地権の相続

借地権は相続できます。

「借地権は相続できない」と勘違いをされている方が非常に多いですが、それは誤った考え方です。相続の対象になるれっきとした権利の1つです。

確かに借地権は「建物所有を目的とした土地を借りる権利」なので、「借地権者の死亡等により借地権が消滅する」と考えても不思議ではありません。実際に私も不動産業に携わるまでは借地権は消滅すると思っていましたので。しかし、もし借地権者死亡等の理由により借地権が消滅してしまったらトンデモナイ事が起こります。

例えば、あなたのお父様が所有されているご自宅が借地権上にあるとしましょう。不幸にもお父様が亡くなられて相続が発生しました。この場合に借地権が相続されないとしたら、どのようになるでしょうか。

ご自宅の建物に対する所有権は相続できても、ご自宅が建っている土地に対する借地権が消滅してしまう事になります。つまり、ご自宅がその土地上に存在するべき根拠が無くなってしまうのです。この状況を言い換えれば「ご自宅を取り壊して更地にした上で地主さんに返還しなければいけない」という事になります。

これはどう考えてもオカシイですよね。そもそも相続とは、亡くなられた方と生計を共にしていたご家族の生活を保障するための制度であるべきです。借地権も所有権などと同様に相続の対象でなければいけないのです。

このように考えて頂ければ「借地権は相続できる」という事がより身近に感じて頂けると思います。そして、借地権が相続の対象であることはみなさんの大好きな相続税の対象でもある、という事でもあります。

前置きが長くなりましたが、今回はこの借地権の相続に関するお話をさせて頂きます。「相続税はどのように計算するのか?」「地主と新たな契約を結ぶ必要があるのか」など様々な要点がありますので、1つずつ詳しく解説していきたいと思います。

1.借地権と相続登記

土地の所有権を相続した場合には相続登記を行うのが一般的です。「一般的」という表現を使用したのは、あくまで相続登記は義務ではないからです。相続登記を望まなければしなくても構いません。しかし、様々な不都合が生じます。

例えば、相続登記をしないと相続により所有権を取得したことを第三者に主張できません。つまり「この土地は相続により私が取得しました」と言ったところで、登記が伴ってなければ誰も信用してくれないのです。遺産分割協議が終わり誰が相続するのかが決まり次第、所有権の相続登記をすることをおススメします。

では、本題の借地権の場合はどうなのでしょうか。民法上は借地権の登記も認められていますので、相続による登記をすることも可能です

参照:Wikibooks「民法第605条(不動産賃貸借の対抗力)」

しかし、実務において借地権の登記はほとんど行われません。なぜ行われないのか。それは「地主に登記に協力する義務がないから」です。義務がないのにわざわざ煩雑な手続きに強力してくれる地主など稀でしょう。義務じゃなければ税金を支払う人はどのくらいいるのでしょうか。とても気になります。

※ちなみに、土地の所有権が移転した場合には登記請求権という権利が発生しますので、売主は登記に協力しなければいけません。

これは困りました。登記が出来ないとなると、どのようにして借地権を第三者に主張すればよいのでしょうか。ご安心ください。ちゃんと登記に代わる方法が用意してありますので。その方法とは、

  • 借地上にある自己所有の建物を自己名義で登記をしておく

事です。「ちょっと何を言っているか分からない」という方もいらっしゃると思いますので、もう少し説明をします。カンタンに言えば「借地の登記が出来ない場合には借地の上に建っている建物の登記をしておけばイイよ!」という事になります。つまり、借地上の建物の登記があれば借地権を第三者に主張することが出来るのです。

そもそも借地権は建物所有を目的とした権利です。建物と紐づいている権利なのです。少し乱暴な言い方をすれば「私名義の家が建ってるんだから借地権も私のものに決まっているでしょ!」となります。

相続した権利を第三者に主張するための要件
権利区分 要件
所有権 登記
賃借権 ①借地上に建物があること
②借地上の建物に借地人名義の登記がされていること

何はともあれ、借地権を相続した場合には借地上の建物の登記を自己名義に変更しましょう。そうすれば第三者に「この借地権は私のものだ!」と遠慮せずに主張することが出来ますので。

2.地主との借地契約

借地権を相続した場合には、

  • 従前の借地契約
  • 新たな借地契約

どちらの契約になると思いますか。答えは「従前の借地契約」です。そのままの契約を相続したことになります。地主の許可も必要ありません。もし気になるのであれば、借地契約の借地権者の名義を相続人名義に書き換えてもよいですが、これも必須ではありません。名義書換料として地主が費用を要求してくる可能性もありますのでご注意ください。

相続は譲渡ではないので、地主に譲渡承諾料などを払う必要もありません。地主によっては譲渡承諾料を求めてくる方もいるかもしれませんが、きっぱりと断りましょう。

地主の承諾がないと借地権は売却できません!

※地主の許可は不要ですが、地主への通知はしておきましょう。

3.借地権と相続税

借地権の相続税を計算するのは思いのほかカンタンです。借地権の相続税評価額を求めればよいだけです。路線価図から確認できます。

  • 借地権の相続税評価額=路線価図の価格×借地権割合

※定期借地権の相続税評価額の計算方法は複雑なので、ここでは省略します。

この式からはじき出された借地権の相続税評価額に、相続財産の金額に応じて適用される相続税率をかけ合わせれば相続税額が算出されます。

4.その他の注意点

地主との借地契約書が無い場合

日本では契約に関しては個々人が自由にできるという原則があります(契約自由の原則)。そして、そこから契約は当事者の合意のみで成立するという諾成契約が原則とされています。

この原則により、例え地主との借地契約書が無い場合でも借地契約は口頭での合意で成立しています。念のため地主と相続人との間で借地契約の更新契約書という形で書面に残しておいても良いでしょう。更新料として費用を請求される可能性もありますのでご注意ください。

注意点としては、あくまで従前の契約内容を引き継ぐ形での更新契約書を締結することです。借地権の内容が定期借地権などに変更されたら大変なことになりますので、契約内容は十分に確認しましょう。

借地上の建物の登記名義を確認する

借地権者と建物の登記名義人が同一でなければ、借地権を第三者に主張することが出来ないのは先ほど述べました。さらに一歩踏み込むと、名義人が異なっている場合には借地権の無断転貸として地主から「建物を取り壊して土地を返せ!」と言われてしまう可能性があります。

例えば、相続登記を忘れてしまい「借地権者が実父」「建物の名義人が祖父」のようになっている場合です。借地契約を解除されないよう早急に地主に相談をしましょう。

借地権相続後に借地権を売却する場合

借地権を相続する際には地主の承諾は不要ですが、その後に借地権を譲渡したり借地上の建物を建て替えたりする場合には当然地主の承諾が必要です。譲渡承諾料や建て替え承諾料などの費用も準備をしておく必要があります。

地主が亡くなった場合

地主の相続人が借地契約における賃貸人の地位を相続します。それまでの権利義務関係を全て引き継ぎますので、借地契約に何ら変更はありません。

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。

借地権を相続した場合には何よりもまず、

  • 借地上にある建物の登記名義を借地権者である自己名義に変更する

上記の事を優先して行ってください。ちなみにこれは相続の場合の話であり、「遺贈」の場合には手続きが全く異なりますのでご注意ください。ちなみに遺贈の場合には、

  • 地主の承諾必要
  • 譲渡承諾料も必要

となります。手続面から考察すると、相続というよりも譲渡に近いです。遺贈に関してはまた別の記事で触れたいと思います。

最後までお読み頂きましてありがとうございました。


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