土地を利用するための権利は主に2種類あります。所有権と借地権です。所有権をカンタンに言えば「不動産を直接所有する権利」です。所有権を有していれば、その不動産を「自由に使用・収益・処分」することが出来ます。「貸し出すも良し」「売却するも良し」「贈与するも良し」です。法律や公序良俗に反しない範囲で処分をすることが認められている権利です。
ではもう1つの権利である借地権はどのような権利なのでしょうか。借地権をカンタンに言えば「地主(土地の所有者)に地代を払う事によって建物所有を目的として土地を間接的に利用する権利」です。「間接的に所有」と言われてもよく分かりませんよね。 「間接的に所有」を言い換えれば「直接的に所有する所有権よりも権利として弱い」という事になります。所有権とは対照的に、借地権は自由に処分をすることが出来ません。借地権を処分する場合には、その借地権が設定されている土地の所有者の承諾が必要になります。つまり土地に対する「所有権」を有している人の承諾が必要という事です。
※借地権を相続した場合に関しては地主の承諾は不要です。土地の賃貸借契約書を新たに締結する必要もありません。従前の契約内容をそのまま相続します(地主対して「借地権を相続しました」という趣旨の通知をする必要はあります)。
上記の事を逆から言えば「借地権を自らの意思で自由に処分することは出来ないが、地主の承諾を得れば処分することが可能」という解釈も可能です。このような事を勘案すれば「借地権は一定の制限は付くが譲渡も贈与も可能な立派な権利である」なのです。
しかし、権利に一定の制限が付きますので「所有権と同様の方法で売却ができる」という訳にはいきません。借地権の売却には借地権独自の売却の手順を踏む必要があります。なので今回は、
- 借地権を地主ではない第三者に譲渡し、その後に第三者が借地の上にある建物を建て替える
という具体例を設定した上で、借地権を売却する際の手順を考察していきましょう。
借地権を第三者に譲渡する際に必要な手続きは、
- 地主の承諾
- 地主と第三者の契約条件の調整
- 各種費用の清算
主に以上3点になります。下記で詳しくみていきましょう。
1.借地権の譲渡に対する地主の承諾
借地権を処分するためには、何よりも「地主の承諾」が必要です。最初にして最大の難関と言えるでしょう。主に下記3つの事項について承諾を得る必要があります。
- 借地権自体の譲渡承諾
- 借地上の建物に対する建て替え承諾
- 抵当権設定承諾
借地権自体の譲渡承諾
まずは借地権自体の譲渡に対する承諾をもらう必要があります。一般的に借地権の処分に対して承諾をしてもらう場合には承諾の代わりに「承諾料」を支払います。「譲渡承諾料」「名義書換料」とも呼ばれています。そしてこの譲渡承諾料の相場は、
- 借地権価格×10%
となっています。ちなみに住宅地における借地権の譲渡価格は「所有権価格の60~70%」程度になることが多いです。この借地権価格に関しては住宅地や商業地、工業地などで異なってきますので一概にいう事は出来ません。「用途地域別によって借地権価格は異なってくる」という事は覚えておいて下さい。例えば住宅地において土地の価格が5,000万円、借地権価格が所有権×70%であると仮定すると、
- 借地権価格:5,000万円×70%=3,500万円
- 譲渡承諾料:3,500万円×10%=350万円
譲渡承諾料はあくまで交渉によって決まります。上記の計算はあくまで目安としての金額を計算したに過ぎませんのでご了承ください。
借地上の建物に対する建て替え承諾
借地権は何をするにも地主の承諾が必要です。借地上の建物を建て替える場合にも当然地主の承諾が必要になります。そしてこの建て替えに関する承諾を得るためにも、承諾料をお支払いするのが一般的です。「建て替え承諾料」と言います。
この建替え承諾料にも一応相場があります。
- 更地価格×3%
更地価格が5,000万円の場合、
- 建て替え承諾料:5,000万円×3%=150万円
が相場になります。
※木造(非堅固)⇒鉄筋コンクリート造(堅固)のように建物の構造が変わる場合には、建物の構造に関する借地条件の変更となり、上記相場よりも承諾料の相場は高くなることがほとんどです。
抵当権設定承諾
買主である第三者がローンを利用する場合、借地上の建物に抵当権が設定されます。このローンの返済が滞った場合には抵当権が実行されます。抵当権が実行されると建物の所有権が移りますが、それと共に借地権も移るように地主に事前に承諾を得る場合があります。この場合、抵当権設定契約に実印の押印及び印鑑証明書の添付が必要になりますので、地主さんによっては非常に嫌がる方もいらっしゃいます。
地主に譲渡承諾がもらえない場合
借地非訟手続きという借地に関する問題を裁判よりも簡易な手続きで解決する為の手続きを利用することが可能です。
この手続きをカンタンに言えば「地主に代わり裁判所が許可を出します」という事になります。この借地非訟手続きが利用できるのは下記の場合です。
借地非訟手続きの種類 | |
---|---|
借地条件変更の申し立て | 建物の構造や用途の変更に関する借地条件の変更を求めるもの |
増改築許可の申し立て | 建物の増築又は改築に関する許可を求めるもの |
土地賃借権譲渡又は転貸許可の申し立て | 第三者に賃借権を譲渡する又は転貸することの許可を求めるもの |
競売又は購買に伴う土地賃借権譲受許可の申し立て | 抵当権の実行により建物の所有権及び借地権が買主である第三者に移ることの許可を求めるもの |
上記の場合には、例え地主が承諾をしない場合でも裁判所が地主の承諾に代わる許可を出してくれます。もちろん、理にかなった場合でないと許可は下りませんが。借地権者にとっては心強い制度です。
では、この制度を利用するのはどのような場合でしょうか。カンタンですね。地主との折り合いがつかない場合です。折り合いがつかないから裁判所に判断を委ねるのです。そしてこの制度は地主に代わって裁判所が許可を出すことは出来ますが、地主そのものを変更することは出来ません。「自分に代わり裁判所が許可を出す」、このような状況を地主は受け入れるのでしょうか。普通なら受け入れませんよね。
何が言いたいのかといえば、この制度を利用する場合、地主との関係は確実に悪化します。そもそも承諾が下りないという険悪な関係が更に悪くなるのです。このような、地主と現借地人とが険悪な関係の土地の借地権を欲しがる人などいるのでしょうか。私は遠慮します。
借地権は地主と借地人との良好な関係があってこその権利です。険悪な関係の借地権など欲しがる人はいません。欲しがる人が居ないという事は、借地権の価値が下がる、という事を表しています。あくまで可能性を述べているだけですが、この事は頭に入れておいてください。
借地非訟手続きは最終手段であり奥の手です、使わないに越したことはありません。また、借地非訟手続きによって裁判所から譲渡の許可を得た場合も裁判所が決定した譲渡承諾料を地主に対して支払う必要がありますのでご注意ください。
2.地主と買主である第三者との新たな借地契約条件の調整
「借地期間」「地代」「更新料」その他借地契約条件のすり合わせをします
ここで問題となるのが借地期間でしょう。借地として収入を得たい地主は別ですが、借地契約を早く終わらせたいと考えている地主も少なからずいます。そのような地主は借地期間をできる限り短く設定しようとします。しかし、新しく借地権者となる人は出来る限り借地期間を長く設定したいでしょう。この点で揉めた場合には、折り合いをつけることは至難の業でしょう。
また、地代でもトラブルになることは良くあります。借地人が代わるのを良い機会とみて地代の増額を要求してくることもあるでしょう。慎重な対応が必要です。
3.各種費用の清算
現状の借地権に紐づいている費用に未精算のものがある場合には借地権は売却できません。各種費用がしっかりと支払われているのかを確認した上で譲渡の交渉に臨みましょう。
4.借地権譲渡における注意事項
借地上の建物を売却する場合
借地上の建物を売却する場合にも地主の承諾は絶対条件です。
前述しましたが、借地権の無断譲渡は✖です。借地上の建物は借地権を前提として建てられています。その建物を譲渡した場合には、当然借地権も建物と共に譲渡されます。ですので、借地権の譲渡という側面もありますので、地主の承諾が必要です。
仮に地主の承諾を得ないで借地上の建物を譲渡した場合には違法行為になり、借地権が消滅してしまう可能性も生じます。借地権に係ることは全て「地主の承諾が必要」と考えておいた方が安全です。
借地権の譲渡先としては地主が最有力
借地権の譲渡先が決まっている場合はよいのですが、借地権が不要になり「借地権を売却したいが誰に譲渡すればよいのか」という事もあるかと思います。そのような場合にはまず地主に声を掛けましょう。地主が借地権を購入すれば、
- 底地権(借地権が設定されている土地)+借地権=所有権
となるので、地主としては底地権よりも所有権にした方が土地の価値が上がります。このような理由から譲渡先の最有力は地主なのです。借地権者が底地権を譲り受けても同様の事が言えます。当事者同士での譲渡が一番の解決策です。
地主が資産運用の一環として長期に渡り借地料収入を得るつもりであるならば、最初から交渉の余地はありません。また、地主はあくまで借地権譲渡先の最有力候補であるだけで、借地権を買い取る義務はありませんのでご注意ください。
5.まとめ
いかがでしたでしょうか。
所有権と借地権を売却売却する際に最も異なることは、
- 地主の承諾が必要か否か
という事であり、この点が借地権譲渡における最初で最後の難関と言っても過言ではありません。地主とは常日頃から良好な関係を築いておきましょう
最後までお読み頂きましてありがとうございました。