抵当権には順位があります。
不動産業に携わっていると登記簿謄本を目にする機会が非常に多いです。登記簿謄本で何を確認するのかと言えば、まずは所有権。「当該物件の所有者=売主」の確認です。不動産業界にはアヤしい業者も多いですからね。しっかりと確認しないといけません。
所有権の確認後、私は抵当権が設定されているのかどうかを確認します。事業用不動産になると何億何十億もします。そのような不動産を買う場合には、金融機関から借り入れをしていることがほとんどです。借り入れをしているという事は、その不動産には十中八九抵当権が設定されています。もちろん、抵当権の設定は債権額の回収を担保する為です。
抵当権が設定されているのかどうかは、登記簿謄本の乙区に記載してあります。その乙区を見ていると、たまに抵当権が複数設定されている場合があります。「あらー、所有者さんはお金に困ってるんだろうなー」というのが私の率直な思いです。色々なところからお金を借りているからこそ、抵当権が複数になってしまうわけで…これ以上はやめときましょう。
4つか5つ、抵当権が付いている物件を見たことがあります。よく頑張りますよね、債権者の方々。4番手5番手の抵当権を付けてまでお金を貸しているんですから。「なぜ?」って。だって、2番手以降の抵当権は権利として弱いんですから。
不動産業界を貫いている唯一の法則を教えましょう。それは、
早い者勝ち
です。今からその理由を説明します。
優先弁済
複数の抵当権が設定されている物件の抵当権が実行された場合、その返済方法はどうなると思いますか。”各抵当権設定の根拠となった債権額による按分”になると思う方は。ぶぶー、残念ながら違います。このような場合、まずは1番抵当権者の債権額分が優先して弁済されます。優先弁済ってやつです。その後、もし残額がある場合にのみ2番抵当権者にも弁済が行われます。残額がある限り3番、4番と下位の抵当権者にも充当されますが、無くなったらそこで終了です。お金がある限り下位の抵当権者にも弁済が行われる、という仕組みです。
「お金を貸しているのに何も返ってこないなんてヒドくない?」と思われるかもしれませんが、これが不動産業界の常識です。「早い者が強い」のです。抵当権の設定に関して先を越された人が悪いのです。確実に債権額を担保したければ、1番抵当権を設定すべきであり、既に他者によって1番抵当権が設定されているのであれば、お金を貸すという行為自体を見直すべきだったのです。
もちろん、1番抵当権の実行により返済された金額が債権額に満たない場合には債務者に「残りを返して!」と言う事は可能です。しかし、債務者はお金もなければ担保もありません。債務者としては返したくても先立つものが無いのです。2番抵当権、弱いですよね。
2番抵当権の実行の申し入れ
ここでも”早い者勝ち”の理論が登場します。
2番抵当権者が自らの権利である2番抵当権を実行をしようとしても、1番抵当権者の債権額が担保物件の価値を上回ると判断された場合、抵当権の実行自体が取り消されることがあります。「抵当権を実行しても、2番抵当権者であるアナタへの返済に回るお金はないから意味ないでしょ!!!」という事です。おっしゃる通りですよね。
もちろん、担保価値に剰余が認められない場合でも1番抵当権者の同意があれば抵当権の実行は可能です。債務者から1番抵当権者へのお金の返済が滞っているのであれば、抵当権の実行に同意する可能性は高いです。しかし、しっかりと返済がされている場合には、1番抵当権者が2番抵当権の実行に同意することはまずないでしょう。
またまた2番抵当権の弱さを見せつけられました。「抵当権」という権利を持っているにも関わらず「2番」という数字が付くことによって抵当権を実行することすら難しい。やっぱりこの世の中は2番じゃダメなようです。
「2位じゃダメなんでしょうか?」
「1位じゃなきゃダメなんです!!!!!」
抵当権の順位の変更
1番抵当権者及び利害関係者の同意があれば、2番抵当権者が晴れて1番抵当権者になることは可能です。1番を手にいれてしまえば、こっちのものです。優先弁済もされますし、他の抵当権者の同意を得ることなく抵当権の実行が可能になります。
しかし、これはあくまで理論上のお話です。現実の世界において抵当権の順位を譲ってくれるような人が存在すると思いますか。本当に特殊な場合を除いて、まずあり得ないでしょう。自分が最初に弁済を受ける権利を捨てるなんて。1万円でもイヤですよ、私は。
私は抵当権の順位の変更を実務で経験したことはありません。宅建の試験対策で覚えたくらいです。実務的なものというよりは、「法律上はこのような方法もありますよ!」という要素が強いのではないでしょうか。抵当権の順位を譲ったことがある人、どのような経緯によってそうなったのか、ぜひ私に教えてください。
また、債務者が1番抵当権者の債権を全て返済し終えた場合には、1番抵当権が外されます。その場合には、繰り上げで2番抵当権が晴れて1番抵当権に昇格します。「債務者が弁済するかしないか」という偶発的な出来事によって生じる順位の上昇なので、債権者側からはどうすることも出来ません。出来ることと言えば、「早く返してっ!」って言うことぐらいですかね。
このように、2番抵当権は
- 優先弁済無し
- 抵当権の実行を申し入れても取り消される可能性大
- 1番抵当権者及び利害関係者の同意がなければ順位の変更不可
と可哀そうになるくらい弱い権利なのです。「自分一人では何も出来ませんっ!」と言っているようなものです。もちろん、担保物件の価値が非常に高く1番抵当権の債権額などチョチョイのチョイの場合には、2番抵当権は大いに活躍する事でしょう。が、一般論を言わせて頂くと、そのような場合はほとんどありません。1番抵当権の債権額の返済でいっぱいいっぱいの事がほとんどです。
2番抵当権は念のための権利である
こんなイメージを持っておいて頂ければ良いのではないでしょうか。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。