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2017.09.01   2018.04.06

なぜ賃貸における仲介手数料は「家賃の1か月分」なのか?

なぜ賃貸における不動産会社への報酬は家賃の1ヶ月分なのか?

賃貸住宅を探すために不動産業者にお願いした場合は、最終的に不動産業者に仲介手数料を支払う必要があります。この仲介手数料の相場は「家賃の1ヶ月分」です。どの不動産業者にお願いしても金太郎アメの如く「家賃の1か月分」が仲介手数料となっています。仲介手数料の額は法律で決まっているのでしょうか。

不動産全般に関するメインの法律である「宅地建物取引業法」の中には仲介手数料という言葉は出てきません。全て「報酬」という言葉に統一されているので、その報酬に関する規定を見ていきましょう。宅地建物取引業法の第46条に報酬の規定があります。その第1項に、

宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買、交換又は貸借の代理又は媒介に関して受けることのできる報酬の額は、国土交通大臣の定めるところによる

参照:houko.com「宅地建物取引業法」

上記のように規定されているのです。宅地建物取引業法の中に報酬の細かいは規定は存在せず「国土交通大臣に決めてもらいます」となっています。なので次は国土交通大臣がどのように報酬を定めているのかを調べてみましょう。

仲介手数料の金額は、宅地建物取引業法において国土交通大臣の告示によって決まる、とされています。そして、その国土交通大臣の告示を見てみると、

宅地建物取引業者が宅地又は賃借の媒介に関して依頼者の双方から受けとることのできる報酬の額の合計額は、当該宅地又は建物の賃借の一月分の1.08倍に相当する金額以内とする。この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関しての依頼者の一方から受け取ることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるにあたつて当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の一月分の0.54倍に相当する金額以内とする。

※カッコ書きは省略しています。

参照:国土交通省HP「昭和45年建設省告示第1552号」

少し読みづらいですが、言わんとすることは「報酬(仲介手数料)も上限額は家賃の1か月分+消費税」という事です。つまり、家賃の1か月分以内の報酬であれば、不動産業者が報酬額を決めてよいのです。この家賃の1ヶ月分も本来は「依頼者の承諾」を得ていなければいけないはずなのですが、現在では慣例として当たり前になってしまっています。これからは当たり前の事を疑っていかないといけないですね。

ここまでの考察で、どの不動産業者に賃貸の仲介をお願いしても「家賃の1か月分」の仲介手数料が発生することが分かりました。金太郎アメの如く、

国土交通大臣の告示によって決められた報酬上限額のいっぱいいっぱいに仲介手数料を設定している

のです。まぁそれはそうですよね。仲介手数料を頂く側に立った場合、「貰えるものは貰っておこう」という考え方になるのはムリもありません。そしてどの不動産業者も同じ仲介手数料。仲介手数料を見直すキッカケなどもありません。他方、仲介手数料を支払う立場の一般の方々は「家賃の1か月分」の仲介手数料をどのように思っているのでしょうか。

ここでインターネット上にあった仲介手数料の家賃1ヶ月分に対する声を集めてみましょう。

  • 物件を案内するだけで1か月分はもらいすぎ
  • 小さい部屋でも大きい部屋でも1か月分という一律な決め方はオカシイ
  • 何もやってないのにお金をむしり取るのか
  • 消えてなくなればよいのに

賛否の声を集めるつもりが「」の声しか集まりませんでした。断っておきますが、上記は私の発言では無いですし、私がねつ造したものでもありません。インターネット上に落ちていた声を適切な表現に書き換えて掲載させて頂いているだけです(これもねつ造になるんですかね)。

ただ、「何もやっていない」だの「消えてなくなればいいのに」などは酷すぎますね。賃貸契約をするにも、物件を案内し、条件交渉が必要ならばオーナーに持ち掛け、賃貸借契約書を作成し、実際の契約日を決め…など、やるべき業務は多々あります。不動産の営業マンすべてが「行ってきます!」と外出したら最後、車の中で寝ているかネットカフェで時間を潰している訳ではありません。新たなオーナーを見つけに営業をしたり、募集中の物件をインターネットに掲載したりと、色々と大変なのです。

このように1つの賃貸借契約を締結するまでには多種多様な業務があります。その対価として報酬を頂くのは当然の事です。なのになぜ「仲介手数料1か月分」には批判が多いのでしょうか。今回はその理由について私なりに考察をしてみたいと思います。

1.仲介手数料の決め方が業務の対価としての報酬に思えない

私はそもそもの報酬の決め方に問題が有るのではないか、と考えています。s先ほどの賛否の声の中に「小さい部屋でも大きい部屋でも1か月分という一律な決め方はオカシイ!」という意見がありましたが、まさにその通りだと思います。「どんな業務内容にも関わらず仲介手数料は家賃の1か月分」という報酬額の決め方がオカシイのです。

別の業態を見てみましょう。例えば食品業界。スーパーマーケットに行けば様々な食品を目にすることが出来ますが、この1つ1つの食品はどのような利益構造になっていると思いますか。食品の基本的な利益構造は原価積み上げ方式です。まずはその食品の製造にかかった原価を弾き出し、そこに利益をのせてスーパーマーケットなどに卸しているのです。もちろん利益を載せすぎると売れませんので、適正な利益しか取れません。仲介手数料のような「○○の○○分」というある意味適当な決め方は出来ません。そこにはより緻密な計算が求められます。

他の業態でも基本的にこの原価積み上げ方式が採用されていると思います。なので不動産業界もこの方式を取ればよいのではないか、私は心の底から思います。

  • 物件案内:○○円
  • 物件調査業務:○○円
  • 契約業務:○○円
  • 決済・引き渡し業務:○○円
  • 合計:○○円

このような形で報酬額が決まるのであれば、非難の声は今より減少するのではないでしょうか。仲介手数料で一括りにしてしまうから「はっ!?」という声が出てくるのです。それぞれの業務の対価を積み上げてそこに利益をのせて報酬額を決めてもらえれば今よりも納得できませんか。

また、この形は不動産業界に「サービスの質の競争」を持ち込むことが可能です。それぞれの業務のサービス内容と金額が釣り合わない場合には、一般消費者がその不動産会社を利用しなくなります。他のサービスの良い不動産会社に一般消費者が流れていくのです。そうなると、不動産会社は競い合うように自社のサービス及び業務の対価をより良いものにしようと躍起になります。こうして、不動産業界全体にサービスや価格競争の概念が持ち込まれれば、日本の不動産業界はより良いものに成長していくでしょう。

2.仲介手数料無料を謳っている不動産仲介会社も存在するが…

確かに「仲介手数料無料」を謳っている不動産仲介会社も存在します。その多くがインターネット専門の不動産仲介業者です。実店舗を持たないことにより経費を限りなく削減することによって仲介手数料の無料を実現している、そうですが果たして本当なのでしょうか。

確かに、経費をできる限り削減していることに間違いはありません。インターネットがあって初めて実現可能な業態ですが、一般消費者の利益を最優先に考えていると言えるでしょう。

では、この仲介手数料無料を謳っている不動産仲介業者はどこから利益を得ているのでしょうか。もちろん、一般消費者からの利益は期待できません。ちなみに仲介手数料無料と言っても一定の条件を満たす必要があり、その条件から外れてしまった場合には仲介手数料は必要なようです。いずれにしろ、継続的な利益を計上するためには、他の利益獲得手段が必要になります。

その利益獲得手段が「物件の大家さん側からの手数料」なのです。一番最初に述べましたが、当事者の承諾があれば当事者の一方から仲介手数料1か月分を得ることが可能です。つまり、

借主(一般消費者)から仲介手数料1か月分⇒貸主(大家)から仲介手数料1か月分

というように不動産会社が仲介手数料を頂く相手が変わっているだけなのです。この話だけを聞いたら「大家さんが損をしているだけではないのか?」と思われるかもしれませんが、そうでもないのです。逆に大家さんにメリットになることも考えられるのです。

「築年数が古い」「駅から遠い」「数か月空室のまま」など入居者のつきにくい物件は、大家としては何としても入居者をつけたいものです。もし仲介手数料1ヶ月分の負担で入居者が付くのであれば「ぜひお願いします!」という大家さんは星の数ほどいるでしょう。「空室=収入0」と同じです。税金や管理費などを考えるとマイナスです。この状態のまま放置してよいはずがありません。

空室を埋めるために家賃を下げてしまうと、それこそ月々の収入に影響します。不動産投資物件の場合だと利回りに直結してしまうのです。もちろん家賃の減額幅次第ですが、イニシャルコストとして仲介手数料1か月分を支払った方が月々の収支に影響はありません。また家賃を下げた場合、既に入居している他の入居者からクレームが出る可能性があります。「同じ間取りなのに何で新規募集物件の方が安いんだ?」などなど。家賃の減額は最終手段と考えておきましょう。

3.不動産業界全体のビジネスモデルが現在の仲介手数料形態の上に成り立っている

今まで見てきたように、不動産賃貸における仲介手数料は上限しか決まっていません。なので不動産業者は仲介手数料の値下げをすることも可能ですし、無料にすることも可能です。無料は極端な例ですが、実際に仲介手数料無料を謳い仲介業務を行っている不動産業者があることは先に見てきたとおりです。

このように、低価格を前面に押し出す企業が登場した業界は、それに引きずられるように価格競争が巻き起こるのが一般的です。デフレを背景に登場した「イオン」や100均一の「ダイソー」、「回転寿司」などがまさにそうです。一気にそれらの業界に価格競争が巻き起こりました。しかし、不動産業界は特殊です。低価格(無料)を武器に不動産賃貸市場に打って出た不動産業者が登場したにも関わらず、今のところ価格競争が勃発する前兆は感じられません。なぜなのでしょうか。

ここからはあくまで私の想像でしかありませんが、既存の不動産賃貸の仲介業者は「一般消費者から仲介手数料1ヶ月」を絶対の基準としてビジネスモデルを築き上げています。もし、「仲介手数料無料」を掲げオーナーから仲介手数料を頂戴するビジネスモデルに転換した場合に上手くいく保証はありません。逆に既に先駆者がいるので失敗に終わる可能性が高いと言えます。

もちろん「既存のビジネスモデルで十分稼げているのであるから、あえてそれを壊す必要はない」という考え方は最もです。自ら自分の首を絞めるような行為は、端から見れば愚かな行為にうつります。しかし、インターネットが広く普及し日々進化を遂げている今後は新たなビジネスモデルを武器に不動産市場に参入してくる企業は増えるでしょう。既存のビジネスモデルはいづれ廃れるのです。10年後には「仲介手数料無料」が一般化していることも十分に考えられます。

4.仲介手数料の上限はカンタンに破ることができる

この記事で何度も「仲介手数料は家賃の1か月分」が仲介報酬の上限である、と述べてきました。しかし、実はこのルールはカンタンに破ることができるのです。その方法が「広告費(AD)」です。名目を、

仲介手数料⇒広告費

に変えるだけで仲介手数料のルールを破ることが可能です。広告費は裁判所の判例でも受け取って良いとされている費用です。裁判所が認めているのであれば、誰もが受け取りますよね。しかし、裁判所の判例ではこう付け加えられています。オーナーからの特別な依頼による「特別な広告」に当たる場合には広告費を受け取ってよいと。先ほど引用した国土交通大臣の告示においても、

依頼者の依頼によって行う広告の料金に相当する額については、この限りでない

と規定されています。では「特別な広告」とはどのような場合なのでしょうか。まず、通常の業務の範囲内であると認識される広告業務は特別な広告ではありません。「インターネットに掲載する」「通常の業務として行つているチラシ配布」などは広告費を受領してはいけません。

他方、オーナーが「この地域に募集のチラシをまいて欲しい」という特別の依頼があり、その地域へのチラシ配布が不動産業者の通常業務の範囲外であれば、広告費を受領することが可能です。また、広告料の高い新聞などへの広告も特別の広告に当たるでしょう。このような特別な広告をして初めて広告費を受領することが可能なのです。

しかし、現実は違います。普通の業務しか行っていないのに広告費を要求されることが多々あります。「インターネットに物件を掲載するので広告費を下さい」というイメージです。もちろん、その掲載がYahoo!のトップページであるような場合には特別の広告に当たるでしょう。多額の費用が必要になりますので、広告費を支払わなければいけません。

これは法律の抜け穴というしかないのではないでしょうか。「報酬の上限額のみ設定」「上限を超えて受領できる広告費の仕組み」など不動産業者に有利な文言ばかりです。「裏に何かあるのではないか?」と疑われてもおかしくないと思いませんか。もう少し業界の状況を把握した上で条文などを定めて欲しいものです。

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。

今回は不動産賃貸における仲介手数料について考察しました。「法律による規定」「実際の運用」「法律の抜け穴」など仲介手数料1つとっても様々な事を考える必要があります。特に仲介手数料は消費者のお財布に直結する問題です。しっかりと丁寧に考える必要があります。

今後は「仲介手数料無料」を謳い文句に不動産市場に参入してきた不動産業者がどのように立ち振る舞うのかが焦点になります。一般消費者からは応援の声が多いですが、同業他社からは批判の声や圧力もあるらしいので。負けずに頑張ってもらいたいですね。

最後までお読み頂きましてありがとうございました。


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