「衣・食・住」のうち「衣、すなわち服」及び「食、すなわち食料品」の価格はどのように決まるのでしょうか。服や食料品を製造している会社の社長が何となく決めているのでしょうか。当然そんなことはありません。そんなことをしていたら、会社はあっという間に倒産です。
服や食料品の価格は、まず原価を積み上げその後に利益をのせた上で決められます。もう少し詳しく言えば、その商品の製造にかかった原価や人件費、その他費用をまず積み上げます。原価計算というやつです。そしてその上に適切な(?)利益を上乗せします。このように、全てを足し合わせて算出された数字が”販売価格“となるのです。
では”住”である不動産も同じような考え方なのでしょうか。確かに戸建や分譲マンションなどの居住用不動産には前述した理論が当てはまります。良質な建材を利用すれば販売価格は高くなります。逆に、ほどほどのものを使えば安くなります。また、販売会社が利益をたっぷり乗せれば高くなるし、薄利でも構わないのであれば安くなります。原理は”衣食住”ともに同じなのです。
他方、投資用不動産の場合にはこの理論は当てはまりません。原価積み上げ方式で販売価格が決まるわけではないのです。では、どのようにして価格が決まるのでしょうか。それは「いくらで売れるのか」で決まるのです。買いたい側の言い値で価格が決まるのです。もちろん、売る側も原価を割るような価格では売りません。しかし、こと投資用不動産においては「買う側がいくらで買うのか」という事が最も重要なファクターなのです。その買う側として
日本の不動産王”J-REIT”
日本で最も投資用不動産を購入しているのは、間違いなくJ-REITです。王者として日本の不動産市場に君臨しています。もし、購入を検討している物件をREITも狙っているという情報も耳にした場合には、その物件は諦めましょう。十中八九勝てません。圧倒的なバイイングパワーをREITは持っているのです。超大手不動産会社でないと土俵にも上がることが出来ません。
REITの驚異的な資金力の前には数多の投資家が無力になります。「え、そんな高値で買えるの?」っていうくらいの価格をREITは提示してきます。REITは基本的に内部留保を行いません。それなのに「豊富な資金力とはどういうことなのか?」とギモンに思うでしょう。
REITは物件を買う時「新株発行」か「借入」により購入資金を調達します。そして、どんなに高値で不動産を購入する予定でもどちらかの方法によりその資金は集まってしまうのです。「借入余力」が数百億円分あるREITなんてザラにあります。これがREITのスゴいところです。内部留保などそもそも必要ないのです。
そして、REITが高値で物件を購入した場合、その価格がプライスリーダーとしての役割を担い不動産価格の相場を形成するのです。言い換えれば、日本の投資用不動産が「高価格低利回り」なのはJ-REITのせいである、という事です。REITのせいで投資用不動産価格が高騰したと言っても過言ではありません。
日本を買い漁ろうとしている海外マネー
少し前のデータになりますが、日本経済新聞よると、2017年上期(4~9月)の海外投資家による日本の不動産の購入額は6,500億円超となっています。この額は同時期のJ-REITの購入額を上回っており、J-REIT創設以来初めて海外投資家が首位に立ちました。日本の不動産王であるJ-REITと海外マネーのガチンコ勝負、オモシロそうだと思いませんか。
この海外マネーの躍進の背景には、日銀の金融緩和政策による「低金利」「円安」が存在します。海外投資家が日本の不動産に投資を行う際、日系の金融機関から融資を受ければ海外投資家も低金利の恩恵を受けることが出来ます。さらに、円安により他国の通貨の対円に対する価値が高いので、より割安に不動産を購入することが出来るのです。
日本経済としても円高よりも円安の方が国内企業、特に輸出企業に有利であることはご存知の通りです。日銀も出来る限り円安になるような政策を実施します。国際的には「円安誘導だ!」というお叱りを受けることも多々ありますが。。。
そして、この円安こそが海外投資家が「日本の不動産は割安である」と考える最大の要因です。日本において円安が続く限り、海外マネーは日本の不動産市場に流入し続けることになります。
2強による価格競争の果てに残るモノ
投資用不動産の価格は、J-REITと海外マネーにより決められていると言っても過言ではありません。彼ら2強が先頭を走っていて、その後を他の不動産会社や投資家が追随している状況です。より高い金額を提示できるプライスリーダーが不動産を手に入れていくのです。
しかし、不動産は可能な限り”安く”購入したほうが、利回りも上昇し投資の成功確率も上がります。にもかかわらず、現状は「”誰が一番高く買えるのか”」という争いが勃発しているのです。
少し前、銀座において「1坪2億円」で商業施設が売買されました。やり過ぎです。高値競争の結果がこのような理不尽な価格を生んでしまったのです。「収益をベースに計算をしているから、決して異常な価格ではない」という考え方があるようですが、私には理解できません。高校卒業後すぐに働きに出る方の生涯年収が約2億円と言われています。どちらも同じ2億円なのですが、重みが違うと感じてしまうのは私だけでは無いはずです。
現在の不動産価格は「異次元」のレベルに到達しています。そしてこれが日本銀行の基本政策である”異次元の金融緩和”の結果です。不動産の高値買い競争に勝ったとしても、果たしてそれは投資としての成功であると言えるのでしょうか。むしろ”負け”であり”失敗“なのではないでしょうか。投資は利回りありきであり価格ありきではありません。価格に引きずられて高値買いを強いられた投資など、お金があれば誰でもできます。
今後の不動産市場において、高値買いのババ抜き競争がこれ以上過剰にならない事を切に願っております。
最後までお読み頂きましてありがとうございました。