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2018.03.20  

相続税の実質増額により相続税が払えない人が続出する!?

相続法の改正

財務省のHPによると、平成29年の国の相続税収入は「2.1兆円」を超えています。相続税収のピークは平成5年の「2.9兆円」であり、その後相続税収は減少傾向でした。しかし平成26年から相続税収が増加し、平成28年及び平成29年は2兆円を超えました。

参照:財務省HP「相続税の課税件数割合及び相続税・贈与税収の推移」

これは平成27年に行われた相続税改正の影響が大きいでしょう。この改正により「基礎控除額(非課税枠)の縮小」「最高税率の引き上げ(50{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}⇒55{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8})」が行われました。それ以前よりも4割も基礎控除額が減額されたのです。基礎控除額が減額されたことにより、相続税の課税を行われる人が増加しました。それまでは、相続が起きても実際に相続税を支払わなければいけない人は全体の4{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}程度でした。つまり残りの96{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}の人は相続財産が基礎控除額内に収まっていたのです。

しかし、基礎控除額が4割削減されたことにより、相続税を支払わなければいけない人が倍になりました。つまり、全ての相続のうちの約8{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}の人が相続税を支払わなければいけなくなってしまったのです。もちろん、これは全国の平均ですので、東京・大阪・名古屋などはより高い割合になるでしょう。「相続税は富裕層への税金」というイメージが少しずつ崩れ始めているのです。


では、世界の相続税事情はどうなのでしょうか。驚くことに、「そもそも相続税が存在しない」「相続税を廃止した」国が多く存在します。中国やシンガポール、インドには相続税は存在しません。またカナダとオーストラリアは1970年代に廃止しました。あの税金が高いことで有名なスウェーデンにおいても2004年に相続税を廃止しています。

アメリカや、イギリス・フランス・ドイツには相続税は存在しますが、日本よりも最高税率が低いです。

主要国の最高及び最低税率
  日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ
最高税率 55{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 40{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 40{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 45{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 30{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}
最低税率 10{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 18{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 40{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 5{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 7{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}

※アメリカは最低課税額が日本円にして6億円超なので、富裕層のみにしか相続税はかかりません。

世界的な流れとしては、相続税は廃止若しくは縮小の方向に動いています。しかし、日本だけが相続税増税の方向に舵を切っているのです。日本でも数年前までは縮小傾向にあったのですが、今では一転増税です。なぜなのでしょうか。何か日本独自の特殊な事情でもあるのでしょうか。

1.特殊な事情其の①:団塊の世代の所有する大資産の早期移転を促している

日本では、1947年~1949年に産まれた「第一次べビーブーム」世代、通称「団塊の世代」が高齢者化しています。2018年現在では既に70歳以上となっています。この1947~1949年の3年間の出生数は約806万人でした。戦後の統計において最多である1949年の出生数は約270万円であり、2017年の出生数が約94万人であることを考えても突出した出生数となっています。その団塊の世代の方々が一気に高齢者となっているのが今の日本の現状です。

そして、この70歳以上の団塊の世代の方々がたくさんの資産を保有しています。資産は主に「金融資産・宅地資産・住宅資産」になりますが、その全てにおいて、30~40歳代などの若い世帯よりも資産を保有しています。30~40歳代の子育て世帯はマイホーム購入、子供の教育費などで資産を形成する余裕などありません。

参照:平成26年全国消費実態調査

上記の調査によると、やはり30~40歳代が一番お金を使うのでしょう。負債残高が一番多いです。そして50歳代、60歳代になるとともに資産が増加し負債が減少していきます。このことから次の事が分かります。日本において資産を所有しているのは50~60歳代以降の方々であり、若い世代である40歳代未満においてはあまり資産を所有していないのです。

そして、50~60歳代の方々の資産形成に寄与するものの1つに相続財産があります。日本においては、相続人が50歳代後半から60歳代の時に相続が起こることが多いです。ちょうど資産が形成されていく年代と一致します。退職金や保険金の満期などによっても金融資産が増加します。そして、この年代の方々は老後の為に資産を出来る限り残そうとします。つまり消費活動に積極的ではないのです。老後にお金が無くなってしまつてはどうしようもありません。このような考え方は至極真っ当です。

しかし、国としては出来る限り資産を消費してもらった方が助かります。経済も活発になりますし、何より税収が増加します。消費税はもちろんの事、好景気であれば法人税も期待できます。若い世代は住宅購入や教育などの消費は活発ですが、資産があまりありません。団塊の世代は資産は所有していますが、消費に消極的です。そこで政府が考え出した案は、

団塊の世代から若い世代への資産の移転

老後の資金以外はあまり資産を消費することのない団塊の世代から、活発に消費活動を行う若い世代への資産の移転を行う政策を取ったのです。具体的には「相続税の増税」と「贈与税の非課税枠の拡大」です。言い換えれば「亡くなるまで資産を所有していた場合、相続税を課しますが、生前に一定の条件を満たした贈与を行った場合には非課税枠を設定します」ということになります。相続税は増額傾向ですが、贈与税に関しては非課税枠が増額傾向です。つまり、

早い段階で資産を若い世代に移転してください!

と政府は主張しているのです。若い世代の消費こそが国や経済を活性化させる1つの大きな要因であるという事です。私は30歳代後半ですが、確かに活発に消費をしていると思います。消費をしたくなくても消費をしなければいけない状況にも遭遇します。子供がいると尚更です。二言目には「お菓子買って!」「オモチャ買って!」ですので。もちろん、これらの政策における移転資産のメインは「金融資産」となります。贈与税の非課税枠には住宅資金教育資金などが含まれますが、あくまで資金です。

宅地や住宅を贈与しても消費が活性化されるか否かと言えば懐疑的にならざるを得ません。すぐに資金に換金できるものでもないですからね。そして、宅地資産や住宅資産の贈与においては、金融資産の贈与に関するような特例は準備されておりません。「宅地資産や住宅資産は相続して相続税を払いなさい!」ということなのでしょうか。

2.特殊な事情其の②:資産の約66{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}は不動産資産

先ほど、資産は主に「金融資産・宅地資産・住宅資産」であることを述べました。そしてその大まかな内訳を先ほどの「平成26年全国消費実態調査」で確認してみると、

  • 金融資産:約30{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}(約1,000万円)
  • 宅地資産・住宅資産:約66{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}(約2,300万円)

※上記は全国平均の数字です。

となっております。つまり、資産の約66{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}が「宅地資産・住宅資産」つまり不動産資産なのです。「地主」と呼ばれる資産家の方々は全国各地にいらっしゃいますが、金融資産を所有しているというよりは不動産資産を多く所有されています。「羨ましい」と思われるかもしれませんが、この「地主」さんたちは相続の時に大変です。地主さんたちというよりもその不動産を相続する相続人の方々ですが。。。

現金などの金融資産をお持ちの地主さんの相続人の方々であれば、それほど問題にはならないかもしれません。現金で相続税を払えば良いだけですから。問題は「現金などの金融資産はあまり持っていないが、不動産資産が多い」場合です。「相続税を払うための現金が無い」という事になりかねません。

相続税は現金で一括納付が原則です。税率は、

相続税の税率
法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}
3,000万円以下 15{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 50万円
5,000万円以下 20{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 200万円
1億円以下 30{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 700万円
2億円以下 40{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 1,700万円
3億円以下 45{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 2,700万円
6億円以下 50{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 4,200万円
6億円超 55{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8} 7,200万円

参照:国税庁HP「相続税の税率」

 

上記の表になります。もちろん、この表にある控除額の他にも基礎控除などの控除がありますので、この表に数字を当てはめるだけで相続税が計算できる訳ではありません。相続税額の目安程度にしかならないかもしれませんが、しっかりと把握をしておかなければいけません。繰り返しますが、相続税の納付方法は原則として「現金一括納付」なのです。

この資産の約66{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}が不動産資産であることが、国の相続税収にとっては有難い事なのです。その不動産資産に相続税を課すことによって、確実に税収が見込めるからです。しかも前述しましたが、これからの時代は団塊の世代の方々の相続が始まります。税収アップを狙う国にとってはまたとないチャンスかもしれません。相続税の実質増税の方針にはこのような意味があるのです。

3.相続税の現金一括納付が難しい場合

相続税の現金一括納付が難しい場合には、いくつかの方法があります。主なものは、

  • 延納
  • 物納

の2つになります。「延納」は相続税を分割して支払う制度です。延納期間は相続財産の中の不動産割合がどの程度であるのかにより異なりますが、5~20年で設定されています。相続税の一括支払いが困難である、などの理由がある場合に申請書を提出し、それが認められれば相続税を分割して支払う事が出来るようになります。分割払いですので「利子税」を支払う必要があります。利子と同じですね。

延納でも相続税の納付が厳しい場合には、「物納」という制度も準備されています。物納はその名の通り「相続の対象である資産を相続税の代わりに納付する事」です。物納は延納よりも認められることが困難です。物納に関しては注意点があります。それは、「物納する財産は相続税評価額で評価をされてしまう」ということます。例えば、不動産の場合、相続税評価額は時価よりも低い価格になります。おおよそ「時価×80{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}=相続税評価額」です。

さらに、小規模宅地等の特例を適用している場合には、その適用後の金額で評価されます。この特例を適用した場合には、相続により取得した財産の評価額を80{9b6a60116f1ce4138cb916d038a564d83dd1a941c3c2e5ff8f9a4f78ff99e0c8}減額させることが可能なのです。もちろん満たすべき条件はありますが、1億円の宅地を2,000万円と評価し税金を計算して良い事になります。つまり、「他の税金の計算の際に小規模宅地等の特例の恩恵を受けたのだから、相続税の時もその金額で計算してね!」という事になるのです。さすがに良いとこ取りはさせてもらえないようですね。

参照:国税庁HP「相続をした事業の用や居住の用の宅地等の価格の特例」

延納は利子税を払えば相続税の分割納付が可能になります。もちろん、延納制度の適用を受けるためには一定の要件を満たす必要がありますが、メリットもあります。他方、物納は「時価評価ではなく相続税評価額での評価」などのデメリットが非常に大きいです。物納するくらいであれば、相続不動産を売却してその売却資金から相続税を捻出したほうが良いのでしょう。もちろん、相続税の納付期限までに相続不動産の売却をしなければいけない、という決して低いとは言えないハードルを越える必要がありますが。

4.その他の方法

相続税分の現金が手元になく、「延納」「物納」を利用しない(利用できない)場合の方法としては、

  • 相続不動産の譲渡
  • 相続放棄

の2つが考えられます。相続不動産を譲渡する際には、まず相続不動産を譲渡できる状況にしなければいけません。具体的には亡くなられた方の登記名義を相続人名義に変更する必要があります(相続登記)。また抵当権などが付いている場合には、その抵当権を外す必要もあります。

相続不動産を譲渡し相続税を支払う場合には、相続不動産売却に伴う「譲渡所得税(住民税)」を支払う必要がある場合があります。個人の方が住宅を売却するような場合には、出来る限り譲渡所得税が発生しないような特例(ex.3,000万円の特別控除)が用意されていますので、滅多に譲渡所得税を支払う事は無いと思いますが十分に注意してください。

また、相続不動産を相続開始から3年10か月以内に譲渡した場合には、「相続税の取得費加算の特例」を利用することが可能です。不動産の譲渡所得を計算する場合には売却代金から取得費及び譲渡費用を差し引く必要がありますが、この特例が利用できる場合には「支払い済みの相続税の一部を取得費に加算」することが可能です。譲渡所得などは下記の記事で詳細に考察しています。

不動産の取得費は分からなくてもOKだが「大損」する可能性大!

今まで考察してきたどの方法を利用しても相続税が支払えないという場合には「相続放棄」という最終手段もあります。相続放棄とは「全てを放棄する」という事であり、プラスの財産もマイナスの負債も全て無くなります。一部だけ相続するという事は出来ません。また、相続放棄は相続開始を知ってから3ヵ月以内に申請をする必要があります。この期限を過ぎてしまった場合には承認(「単純承認」という)したとみなされ、プラスの財産もマイナスの負債も全て相続ずることになりますのでご注意下さい。

5.まとめ

いかがでしたでしょうか。

高齢化社会の真っ只中にいる日本にとって。「相続」という問題は常に頭に入れておかなければいけません。政府がどのような政策を打ち出すのかはもちろんの事、個人レベルでも相続があった場合の対応などを事前に検討しておく必要があります。相続開始後に「相続税が払えない!」となってしまうと、もう他の事が手に付かなくなりますので。

若い世代への金融資産の早期移転、及び不動産資産への相続税課税の流れは今後も継続すると思います。この流れに逆らうのではなく上手に活用できるよう知識を身に着けておきましょう。

最後までお読み頂きましてありがとうございました。


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