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2018.01.06   2020.07.12

機関投資家にはJ-REITよりも私募リートの方が都合が良い?

なぜ賃貸における不動産会社への報酬は家賃の1ヶ月分なのか?

機関投資家といきなり言われても何が何だか分かりませんよね。機関投資家とは「大口の法人投資家」の事です。「個人投資家以外の投資家」と言っても良いかもしれません。「生命保険会社」「損害保険会社」「普通銀行」「信託銀行」「年金基金」などが主な機関投資家です。それぞれが顧客からお預かりしている資金を元手に運用します。大量の資金を運用しますので、機関投資家が動くだけでも株式市場や為替市場での影響力はとてつもないものがあります。

 

この機関投資家の運用資金の一部は不動産市場へも流れてきます。実物不動産はもちろんの事、不動産証券化商品へも投資しています。J-REITも機関投資家の有力な投資先の1つです。

 

SPCを理解しなければ「不動産の証券化」は理解できません!

 

この機関投資家の皆様、投資先として「私募リート」を好まれているようです。日本では2010年に野村不動産が最初の私募リートを組成しました。まだ10年も経過していない投資商品にも関わらず、J-REITよりも私募リートの方が機関投資家の皆様に好まれているという調査結果も出ているほどです。ちなみにJ-REITは私募リートよりも10年も前に創設されています。

 

何だ?「私募リート」って?密かに募集しているリートなのか?

 

私募リートはそもそもプロ投資家を相手にしています。もちろん機関投資家は投資のプロです。少し言い方を代えると、「私募リートは機関投資家からの要望により誕生した」と言えます。つまり機関投資家からすると「J-REITは投資対象としては少し物足りなかった」ということになります。では何が物足りなかったのでしょうか。

目次

1.機関投資家が不動産に投資する1番の理由は「リスク分散」

分散投資は投資の基本中の基本です。複数の投資商品に投資しておけば、一方で損失が生じたとしても他方でその損失を穴埋めできる可能性がありますので。しかし、これには注意点があります。分散投資をしたからと言って、全てが市場に連動し同じ値動きをする投資商品の場合には意味がありません。一方で損失が生じた場合には他方でも損失を被る可能性が大きいでしょう。

 

そこで不動産の登場です。

不動産は株式や債券の動きと連動しないと言われています。リーマンショックのような未曽有の状況では同じ動きになる事が多いですが、基本的な値動きは異なっています。これが機関投資家に支持される理由です。株式や為替、債券などと異なる値動きをする投資商品を組み込んでおけば、それらで損失が生じたとしても不動産が利益を出してくれるかもしれませんので。

 

しかし、J-REITは上場していますので株式市場の影響をもろに受ける可能性があります。つまり株とJ-REITは同じ値動きをしてしまう可能性が高いのです。

 

この点、私募リートは上場していません。株式市場の影響を受けることはほぼありません。景気の影響は受けますが市場の動きに連動することは無いので、機関投資家の考えている「リスク分散」にはピッタリの投資商品であるという事が出来ます。

2.機関投資家は投資スタンスは「長期」

一般的な機関投資家は、短期間での売買を好みません(一部、短期売買を繰り返す機関投資家もいますが)長期的に安定した収益が見込める投資商品への投資が基本戦略です。機関投資家の投資の元手となっている資金は「預金」「保険料」などのリスクを負いたくない性質のものが多いです。長期間投資をし続け、安定的な収益を生み出す投資商品を好みます。

 

この点、私募リートは基本的に運用期間の制限がありません。期限が来たら強制的に終了という事もなく「無期限」なのです。もちろんJ-REITも期限が決められている訳ではありません。投資しているREIT銘柄がデフォルトでもしない限り持ちつつけることは可能でしょう。

 

しかし、REITは日々投資口価格が変動します。市場に上場しているので当然と言えば当然ですが、これが機関投資家から見るとウィークポイントなのです。機関投資家は日々価格が変動する株や債券にももちろん投資しています。しかし、株式や債券に投資する事と不動産に投資する事は機関投資家の中では全く異なったものであると言えます。不動産に関しては、株式や債券とは異なる動きをする「代替資産」であることを期待しているのです。つまり「日々の価格変動は出来る限り排除したい」というのが機関投資家の本音なのです。

3.不動産賃貸収入に基づく安定的な分配金

機関投資家は安定的な分配金を望みます。そして不動産賃貸収入は安定した収入であると言われています。私募リートは不動産賃貸収入を分配金の原資としていますので、機関投資家の望む安定的な収入を実現してくれると言えます。

 

ではなぜ不動産賃貸収入は安定した収入であると言われているのでしょうか。それは「賃料が市場や景気の動向にほとんど左右されない」性質を持っているからなのです。例えば、リーマンショックの際には様々なものの価値が下落しました。しかし、賃料はほとんどの物件において「現状維持」であったはずです。私の周りで「リーマンショック後に賃料が下がった」という人を見たことがありません。不動産自体の価格はビックリするほど大暴落したにも関わらずです。。。

 

そして賃料の下落率も非常に少ない。「1%前後」であるという研究結果も出ています。

さらに賃貸住宅はそもそも入居者の入居期間が長いので「収入の予測を立てやすい」という事も安定性に寄与しているでしょう。ワンルームタイプでは2年程度、ファミリータイプでは6年程度が平均入居期間です。上記のような理由により、不動産賃貸収入は安定的であり、それを分配金の原資とする私募リートも安定していると見ることが出来るのです。

4.まとめ

いかがでしたでしょうか。

 

私募リートと言われても、皆さんにとっては「?」となるのが普通だと思います。しかし、大口の投資家である「機関投資家」などにとってはごく当たり前の投資先になりつつあります。そして私募リートには、

 

  • 株式市場の影響を受けることが限りなく少ない
  • 運用期間の制限が無い
  • 安定した不動産賃貸収入を原資とする配当

 

という特徴を持っています。この上記の特徴が機関投資家にとって好都合であり、さらにJ-REITよりも私募リートを際立たせる原因ともなっています。私募リートもJ-REITも「不動産賃貸収入を原資とする」ことは同じです。しかし、その仕組みが違うだけで投資家からの反応に違いが出る、という非常に興味深い結果を生み出しています。

 

私募リートはまだまだ発展途上の投資商品です。今後も私募リートの動向を注意深く観察していきたいと思っています。

 

今回も最後までお読み頂きましてありがとうございました。


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